2024/02/28
2024/02/27
人形や珈琲店2(全10)
さらさらと細い雨は、
とむさんのこうもり傘をつたって落ちては、
すぐ目の前の道を、ゆっくりにじませて消えていきます。
見慣れた道も、晴れた日とはまた違う景色でした。
いつものようにバス通りへ出たとき、
とむさんは目の前にぽつりとおかれている
赤いとんがり帽子の工事標識に気づきました。
とんがり帽子の行列の先は、道幅が狭くて、
傘を差しては通りにくそうです。
「しょうがないなあ。」
あたりを見回すと、左手の先に、
ぼんやり灯りが見えました。
「なんの灯りだろう。ちょっと行ってみようかな。」
とむさんは、細い通りの小さな灯りに誘われるように
ゆっくりと進んでいきました。
すると灯りを囲むように、
木が朽ちて壊れかけた垣根がみえてきました。
ところどころに崩れた後がある赤い煉瓦の壁。
灯りのもとは二階建ての細長い一軒家でした。
〜つづく
(2/10)
2024/02/26
人形や珈琲店1(全10)

近所へ散歩に出かけます。
すると、「これはすてきな絵になりそうだ」
と思うものがかならず見つかりました。
うす緑色のもやがかかって見える遠くの山や、
透き通るくらい真っ青な空。
ここ何日も、とむさんは散歩に出かけていません。
ずっと雨が続いているからです。
「今日は何を描こうかな。
そうだ、たまには雨の中を散歩に行こう。
何か見つかるかもしれない。」
バス通りを通って近所の喫茶店で一休み。
その後、公園をまわって帰ってくるのが
いつもの散歩コースです。
とむさんは鉛筆を一本ポケットにいれると、
小さめのスケッチブックをかかえて、
雨の散歩へ出かけました。
〜つづく
(1/10)
2024/02/25
雨の糸
一度溶けて街中ではおおかた道が見えていたというのに、
今は除雪車が通った後に、また背の高い壁ができて、
曲がり道は気をつけて歩かなければならないほど。
さて、再び前のブログからのお話を掲載します。
「人形や珈琲店全10話」です
この「人形や珈琲店」と、
前に掲載した「すみれさんと雨」は
同じ時期に書いたものです。
どちらも最初は「雨のいと」という題名でした。
以前道外に住んでいた時、梅雨時期の
窓にあたる雨が、細く長い
糸のようだなと思っていました。
その頃近所に洋服の仕立屋さんがあって、
時々カラフルなベストをきた
男の人をみかけました。
たぶん、その店の店主だと思うのですが
「この人、なにかファンタジー系の
児童書にでてなかったかしら」
と思えるくらい
印象深い個性的なキャラクターでした。
二つのお話にでてくる
男の人はその店主が
イメージモデルになっています。
(本物はもう少しご年配の方でしたが……)
2024/02/21
芸術の森
2024/02/19
色見本
2024/02/18
すみれさんと雨16(全16)
「はあ、たすかった。あ、そうそうスカーフ。」
すみれさんは胸元のスカーフをほどいて、
両手に広げてみました。
「あっ。」
小さな風がふきました。
スカーフは、ぴゅうっとすみれさんの手を離れて
そのまま上へ上へと飛んでいきました。
そしてあっという間に豆粒くらいに小さくなった後、
とうとうすっかり見えなくなってしまいました。
パーッと、雨上がりの空に虹がかかりました。
「わあ、きれい!」
すみれさんは、七色の大きな虹を
いつまでもみつめていました。 〜おわり(全16話)
2024/02/17
すみれさんと雨15(全16)
少し先に、ひらひらと舞う黄色い蝶がみえました。
みーの毛糸のリボンです。
ゆっくり進んでいくと鈴の音がすぐ近くからきこえます。
りん、りりん。
すみれさんは、そっと手をさしだしました。
すすっとまばたき2回したところで、
いつの間にか元の水たまりの前に立っていました。
日が落ちて茜色の雨上がりの道に、
ぴょんぴょんとはねまわるこねこのみーがいました。
首にむすんだ黄色い毛糸が
みーの首元でうれしそうに踊っています。
「ああ、よかった。ありがとうね、みー。」
水たまりをのぞくと、
中の光はもうみえませんでした。 〜つづく(次回16話で完結)
2024/02/16
すみれさんと雨14(全16)
「あら。」
しばらく進むと、雨のいとが
だんだん細くなっている事に気がつきました。
「急がないと……。わっ、大変!」
水たまりの入口まであともう少し、というところで、
手元の糸が急にぷつんと切れてしまいました。
来た道を明るく照らしていた糸車の光は消えて、
あたりはすっかり暗くなってしまいました。
ほんの、もう少しなのに。
(どうしよう。)
り、りんりん。
どこからか、みーの首につけた鈴の音が聞こえました。
「みー!」 〜つづく
2024/02/15
すみれさんと雨13(全16)
「さあ、お客さん。そろそろ雨がやむ前に戻らないと、
帰れなくなりますよ。私にはこれがありますけど、
あいにく一人用で送ってさしあげられませんので。」
仕立て屋さんは、さっきの電気自動車を指差すと、
ちょっと申し訳なさそうに言いました。
「また、糸のような雨が降る日には、ここにおります。
ご注文いただけるようになりましたら、
その時は一番にお仕立ていたしますね。」
「あら、こちらこそお忙しいところ
おじゃましました。それじゃあ、また。」
仕立て屋さんは、また雨の糸を通した細い縫い針を
ちくちくと布に通し、ドレスの仕上げにとりかかりました。
すみれさんは、くるくるとまわる糸車を後に、
急いで引き返すことにしました。 〜つづく
2024/02/14
すみれさんと雨12(全16)
「私も一度くらい、そんなすてきなドレスを着てみたいな。
でも、残念。予約で一杯なのね。」
「はい。せっかく来ていただいたのに、すみません。
そうだ、見本の布地で作ったサービスの品です。
こちらをどうぞお持ち下さい。」
仕立て屋さんはそう言うと、たくさんの布が入った箱の中から
きれいにたたまれた布を一枚取り出しました。
広げてみると、虹のドレスの端切れで作られた
七色に輝くスカーフでした。
「すてきなスカーフ。」
肩にまわして結んでみると、胸元がひんやりしました。 〜つづく
2024/02/13
すみれさんと雨11(全16)
「これはね、電気自動車です。
これで、雲の粒をとりにいくんですよ。」
ドアの横にはミラーの変わりに、小さな羽根がついていました。
「そうやってその糸で仕立てた物は、そりゃあ光輝くドレスにぴったり。
縫い目がいっさいわからないくらい、美しい仕立物が出来上がります。
もう、注文はひっきりなしでね。今、新しいお客様は
受け付けていないんですよ。申し訳ありません。」
仕立て屋さんは、すみれさんに向かって頭をさげました。
「え、いいえ。私はそんなつもりじゃなかったんだけど‥‥。」
仕立て屋さんが手にしているドレスは、
角度を変えてみると、虹のように光っていました。
「でも、ちょっと残念ねえ。」 〜つづく
2024/02/12
すみれさんと雨10(前16)
「雨のいと?」
「そう、この雲の粒が、雨を糸にしてくれるんです。」
男の人はそう言うと光るたまを一つポケットからだして、
すみれさんの手にのせました。
ひやりと冷たいそのたまは、
ガラスの小さなかけらのように見えました。
「雨の糸に、雲の粒。へえ、きれいなものねえ。」
すみれさんが感心してつぶやくと、
男の人はちょっとうれしそうに答えました。
「そう、それは上空一万メートルの高さでできる雲の粒です。
この冷たいたまが、雨を糸にしてくれるんですよ。」
(なるほど、水たまりからずっと続いていた細い糸は雨の糸だったのね。)
机の後ろには、一人乗り用の自動車が見えました。
大きなタイヤに、ブルーの丸い車体。
前面に並ぶ二つのライトが、目玉のようにピカピカ光っています。 〜つづく
2024/02/11
すみれさんと雨9(全16)
「あの、ここはどこでしょう。」
すみれさんが一番聞きたかった事でした。
「そりゃ、見ての通り、仕立て屋の工場です。」
「それじゃ、あなたは?」
「見ての通り、仕立て屋ですよ。ちょっと特別ですがね。」
たしかに、はさみや針山が机の上に並んでいました。
「仕立て屋さん?なるほど、お忙しそうね。
…ところで、なにが特別なんです?」
すみれさんの質問に、男の人は
手元の糸を目の前に持ち上げて、見せてくれました。
「それは、雨の日だけ開店している仕立て屋なんですよ。
ほら。これはね、雨のいとなんです。」 〜つづく
2024/02/10
すみれさんと雨8(全16)
カタカタカタ、コト、カタン。
部屋の中央には、糸をかけた針金が何本もかかっている作業机。
その針金の糸がカタカタ揺れ、机の向こうに
虹色に光る布が波うっています。
揺れている機械からのぞき見えるのは
輝くドレスのすそでした。
そして椅子に座って一人作業をしているのは、
さっき雨の中でみかけた男の人です。
派手な赤いベストにチェックのズボン。
間違いありません。
「こんにちは。」
すみれさんの声に、男の人は
忙しく動かしていた手元からようやく目を離して、
こちらを振り返りました。
「はい?」〜つづく
2024/02/09
すみれさんと雨7(全16)
「どこへ続いているのかな。」
すみれさんは糸をたよりに奥へと進んで行きました。
カタカタカタ、コト、カタン。
規則的な機械の音がひびいてきます。
突然、丸い壁に囲まれた
高い天井の部屋にたどり着きました。
ドーム型の壁は、まるで
スプーンでくりぬいたゼリーのよう。
入口のカウンターには、
つやつやの布地がつまれている大きな箱が
いくつもならんでいました。
部屋の丸い壁にそって洋服かけがぐるりとならび、
そこには沢山のドレスがかけられています。
ドレスにはやわらかなカバーが掛けられ、
カバーには一つ一つ名前が書いてありました。〜つづく
2024/02/08
すみれさんと雨6(全16)
すみれさんは、気がつくと淡い光が届く空間に
ひとりぽつんと立っていました。
目の前には人ひとり通るのがやっとの細い穴が、
なだらかなくだり坂のように続いていました。
ふりかえるとさっき覗き込んだ丸い水たまりが見えます。
そこが入口のようでした。
光る玉を中心に、雨の波紋が
糸巻きのようにくるくると忙しく回転しています。
水たまりからは細い糸がピンとはられて
あなの奥へ続いています。
糸がゆれると、あたりの壁はきらきらと虹色に反射しました。〜つづく
2024/02/07
すみれさんと雨5(全16)
水たまりには、
す、す、すっと細い雨のしずくが
おちては消えて行きます。
そのちょうど真ん中あたりに
小さな光がぽわんと浮かんで見えました。
じっと見つめていると、
雨の波紋がくるくると回りはじめました。
すみれさんは、おそるおそる右手の人差し指で
そっと光をつつきました。
すすすい。
すみれさんの右手が指先から、水たまりの中に引き込まれて行きます。
「わ、わ、わ。」
にゃあ、にゃあお。
みーが耳元でないたかと思うと、あっという間。
まばたきを2回したくらいです。
すすすすすー、とん。〜つづく
2024/02/06
すみれさんと雨4(全16)
「みー、ちょっと見にいってみようか。
雨もそれほどひどくないし。」
急いで外に出てみると、やはりだれもいません。
街路樹に囲まれて少し薄暗くなった道に、
ぽつんぽつんと小さな水たまりがいくつもみえました。
「ここらへんだったかなあ。」
すみれさんは、男の人がみえなくなったあたりを
小さな落とし物をさがすみたいに、目をこらしてみつめました。
すると、目の前の丸い水たまりにキラキラ光る物が見えました。
(なにかしら‥)〜つづく
2024/02/05
すみれさんと雨3(全16)
パシャ、すすすい。
そしてそのまま水たまりの中へ、
足もとから静かに吸い込まれていきました。
「ええ?何、どこにいっちゃったの!」
窓ガラスにおでこをぶつけそうになるくらい
顔を近づけても何も見えません。
「たしかにさっきまで、そこにいたのに。」
すみれさんは、窓の外で何がおこったのか
不思議でなりませんでした。〜つづく
2024/02/03
すみれさんと雨2(全16)
雨の流れるガラス窓を見つめました。
派手な赤いベストにチェックのズボンをはいて、
街路樹が並ぶ細い道をすすんでいました。
「見かけない顔ねえ。」
男の人は空を見上げ(うん)とひとつうなづきました。
そしてポケットから、なにやら小さな光る物を取り出し、
目の前の水たまりにちゃぷと落としました。
(こんな雨の中、いったい何してるのかしら。)
その丸い水たまりの上へ、ぴょんっとジャンプしました。〜つづく
2024/02/02
すみれさんと雨1(全16)
窓ガラスに細い雨が流れています。
すみれさんは、こんな日には、
家で暖かいお茶を飲んで過ごす事にきめています。
でも、今日でもう三日目。
冷たい雨は、まるで絹糸のように細く長く、
とぎれることなく続いていました。
「毎日雨ばっかりねえ。」
すみれさんは、あみかけのセーターを
膝に置くと、お茶をひと口飲みました。
タンポポみたいな黄色の毛糸玉が、
足元のかごの中に山のようにつまれています。
こねこのみーは、さっきからかごのまわりをうろうろ。
ポンッとテーブルの上へ飛び乗ると、
黄色の山をねらって、かまえの体勢です。
「こらこら。」
すみれさんは、短いあまり毛糸を一本つまむと、
みーの首輪についている鈴の横にきゅっと結びました。
それはまるで、黄色のチョウチョがとまっているようにみえました。
「あら、かわいいじゃない。」
にゃおお、にゃおお。り、りん。
みーがテーブルから飛び降り、
窓に向かって勢い良く走り出しました。〜つづく
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今日からは、前ブログより、お話「すみれさんと雨」を転載します。
このお話は以前所属していた児童文学同人誌「宙sora」に掲載しました。
社会人向けの夜間児童文学講座で一緒になった仲間と一緒に、
講座終了後勉強会を続けたものです。
絵本やショートショートのような不思議な物語、
童話や長編の児童文学などそれぞれが好きな作品を書いて集まっていました。
毎回個性豊かな作品を読めて、
自分も学ぶことが多く、参加するのが楽しい集まりでした。