2024年2月28日水曜日

人形や珈琲店3(全10)

 
玄関までの敷石の手前には、
木彫りの看板が立っていました。
人の顔をかたどった、
大きな目鼻がある看板には
『人形や 珈琲店』とありました。
 
「人形や?へえ、こんなところに
 こんな建物があったんだ。」
手前の細く開いている小窓からは、
ぼんやりとした灯りがにじみ、
コーヒーの香りがただよってきます。
 
とむさんはその良い香りにひかれて、
そっと中の様子をうかがいました。
 
「いらっしゃいませ。」
静かにドアが開き、
ささやくような声が聞こえました。
ドアの向こうには、
背の高い男の人が立っていました。
 
〜つづく
(3/10)


2024年2月27日火曜日

人形や珈琲店2(全10)

 

さらさらと細い雨は、

とむさんのこうもり傘をつたって落ちては、

すぐ目の前の道を、ゆっくりにじませて消えていきます。

見慣れた道も、晴れた日とはまた違う景色でした。

 

いつものようにバス通りへ出たとき、

とむさんは目の前にぽつりとおかれている

赤いとんがり帽子の工事標識に気づきました。

 

とんがり帽子の行列の先は、道幅が狭くて、

傘を差しては通りにくそうです。

「しょうがないなあ。」

あたりを見回すと、左手の先に、

ぼんやり灯りが見えました。

「なんの灯りだろう。ちょっと行ってみようかな。」

 

とむさんは、細い通りの小さな灯りに誘われるように

ゆっくりと進んでいきました。

すると灯りを囲むように、

木が朽ちて壊れかけた垣根がみえてきました。

ところどころに崩れた後がある赤い煉瓦の壁。

灯りのもとは二階建ての細長い一軒家でした。

 

〜つづく

(2/10)


2017年7月::::::::::::::::::::::::::::
雨の日のすこし、ふしぎの小さなお話で、全10話です。
 
私は大人になってから、遊園地の絶叫マシーンと
怖いテレビやホラー映画を避けてきました。恐がりなのと、
寝る前にみた映像は高確率で夢に見るタイプだからです。
でも、ちょっと不思議なものってなぜかひかれますよね……。

2024年2月26日月曜日

人形や珈琲店1(全10)

 













とむさんは、町に一人で住んでいる絵描きさんです。
晴れた日には、スケッチブックを片手に、
近所へ散歩に出かけます。
すると、「これはすてきな絵になりそうだ」
と思うものがかならず見つかりました。
うす緑色のもやがかかって見える遠くの山や、
透き通るくらい真っ青な空。
ゆったり歩き回る野良猫や、
忙しそうな小さな虫たち。
 
ここ何日も、とむさんは散歩に出かけていません。
ずっと雨が続いているからです。
「今日は何を描こうかな。
 そうだ、たまには雨の中を散歩に行こう。
 何か見つかるかもしれない。」
 
バス通りを通って近所の喫茶店で珈琲を一杯。
その後、公園をまわって帰ってくるのが
いつもの散歩コースです。
とむさんは鉛筆を一本ポケットにいれると、
小さめのスケッチブックをかかえて、
雨の散歩へ出かけました。
 
〜つづく
(1/10)

2024年2月25日日曜日

雨の糸

 ここ数日の雪は、出遅れて慌てて降り出したような雪です。

一度溶けて街中ではおおかた道が見えていたというのに、

今は除雪車が通った後に、また背の高い壁ができて、

曲がり道は気をつけて歩かなければならないほど。

さて、再び前のブログからのお話を掲載します。

「人形や珈琲店全10話」です


2017年7月の掲載記事より/////////

この「人形や珈琲店」と、

前に掲載した「すみれさんと雨」は

同じ時期に書いたものです。

どちらも最初は「雨のいと」という題名でした。

以前道外に住んでいた時、梅雨時期の

窓にあたる雨が、細く長い

糸のようだなと思っていました。

 

その頃近所に洋服の仕立屋さんがあって、

時々カラフルなベストをきた

男の人をみかけました。

たぶん、その店の店主だと思うのですが

「この人、なにかファンタジー系の

児童書にでてなかったかしら」

と思えるくらい

印象深い個性的なキャラクターでした。

 

二つのお話にでてくる

男の人はその店主が

イメージモデルになっています。

(本物はもう少しご年配の方でしたが……)

2024年2月21日水曜日

芸術の森

先日、札幌芸術の森での明和電機展示会へ行ってきました。
会場内で行われたライブを見てきたのですが、ライブが楽しかったのはもちろん、
展示品とそれを作り出す過程がどれも面白く興味深く、雪深い森の中でしたが
本当に見に行って良かったと思いました。

何かを作ること、発表して人に届くことって
色々な形があるんだなあとしみじみ思いました。

2024年2月19日月曜日

色見本

オイルパステルで絵を描くときの色見本を自分で作っています。
画材そのものの色と、実際に紙に乗せてのばした色が
自分で思っていたイメージと違うことがあるからです。(これは私だけかもしれません)
製品カタログの印刷でもうまく見えないので、描く時は自作色見本は手元に必須です。

先日絵本の資料を大量に机に並べて探し物をしているうちに、
このペラペラの自作カラーチャートを紛失していまいました。
散々探したもののどうしても見つからずまた一から作り直し。
(多分資料本に挟めてそのまま片付けてしまったか、机の狭い隙間に落っこちたか)
よく考えたら10年以上使っていたかも。

作り直しは思ったより時間がかかってしまいましたが、
手元に残り少ない色を見つけて、絵を描く前に買いに行くことができて、
これはこれで良しとしました。

2024年2月18日日曜日

すみれさんと雨16(全16)

 

「はあ、たすかった。あ、そうそうスカーフ。」

すみれさんは胸元のスカーフをほどいて、

両手に広げてみました。

 

「あっ。」

小さな風がふきました。 

 

スカーフは、ぴゅうっとすみれさんの手を離れて

そのまま上へ上へと飛んでいきました。

そしてあっという間に豆粒くらいに小さくなった後、

とうとうすっかり見えなくなってしまいました。

 

パーッと、雨上がりの空に虹がかかりました。

「わあ、きれい!」

すみれさんは、七色の大きな虹を

いつまでもみつめていました。  〜おわり(全16話)