「さあ、お客さん。そろそろ雨がやむ前に戻らないと、
帰れなくなりますよ。私にはこれがありますけど、
あいにく一人用で送ってさしあげられませんので。」
仕立て屋さんは、さっきの電気自動車を指差すと、
ちょっと申し訳なさそうに言いました。
「また、糸のような雨が降る日には、ここにおります。
ご注文いただけるようになりましたら、
その時は一番にお仕立ていたしますね。」
「あら、こちらこそお忙しいところ
おじゃましました。それじゃあ、また。」
仕立て屋さんは、また雨の糸を通した細い縫い針を
ちくちくと布に通し、ドレスの仕上げにとりかかりました。
すみれさんは、くるくるとまわる糸車を後に、
急いで引き返すことにしました。 〜つづく