2024年2月15日木曜日

すみれさんと雨13(全16)

 

「さあ、お客さん。そろそろ雨がやむ前に戻らないと、

 帰れなくなりますよ。私にはこれがありますけど、

 あいにく一人用で送ってさしあげられませんので。」

仕立て屋さんは、さっきの電気自動車を指差すと、

ちょっと申し訳なさそうに言いました。

 

「また、糸のような雨が降る日には、ここにおります。

 ご注文いただけるようになりましたら、

 その時は一番にお仕立ていたしますね。」

「あら、こちらこそお忙しいところ

 おじゃましました。それじゃあ、また。」

 

仕立て屋さんは、また雨の糸を通した細い縫い針を

ちくちくと布に通し、ドレスの仕上げにとりかかりました。

すみれさんは、くるくるとまわる糸車を後に、

急いで引き返すことにしました。 〜つづく