2024/03/17

みてきた展示

 

あれこれやらなくては、な日々ですが、
せっかく札幌で面白そうな展示があるのに
いかないわけにはいかない。
行ってきました。
「あさきゆめみし」「日出処の天子」展。
原稿一枚一枚小さなコマの中、
手書きで引かれた美しい線に、うっとり。

2024/03/11

粘土の人形制作

 

『人形や珈琲店』でとむさんが手に持っているスケッチブックは

薄く伸ばした粘土に白い針金を巻いています。

 

この粘土はとても柔らかいものなので、

全体の形を変えようと力加減を間違えて掴んでしまうと

そのまま変形してしまい、

なかなか納得がいく形に出来上がりません。

これは一旦固まってしまった方が

じっくり形を整えられると考えました。


このことがあって、

数年後、絵本制作で立体を検討した時には

素材は他のもので制作しようと思いました。

「ひげのさきまであったかいもの」では

乾燥すると固まる石粉粘土を使用して制作しました。

2024/03/09

人形や珈琲店10(全10)

 
とむさんは、かたかたと震える手で
コーヒーを一口飲むと、
急いで玄関へ向かいました。
「ご、ごちそうさま。」
「おや、もうお帰りですか。」
 
店主は少し残念そうでしたが、
あきらめたようにうなずいて、
とむさんにこうもり傘を手渡しました。
 
外に出ると、雨はもう小降りになっていました。
駆け足で進むとむさんの背中にむけて
「また、お待ちしています。」
と声がしました。
 
振り返ると、店の入り口で
手をふる店主の姿が見えました。

キラリ。
その右手の先から、雨のような細い糸が、
空に向かってのびていました。〜終わり


2024/03/08

人形や珈琲店9(全10)

「うわああ。」

足元の人形達につまずきそうになりながら、

急いで一階に下り、

あわてて自分の両手を確認しました。

さっき見えた細い糸はもうありません。

右手には、しんの折れた鉛筆。

左手には小さなスケッチブックを持っているだけです。

 

カウンターにはできたてのコーヒーが

良い香りをたてていました。

 

「良い絵はかけましたか?」

店主は、とむさんの折れた鉛筆を見ながら

ほほえむと、湯気のたつ

小さいカップを差し出しました。

後ろの階段を見ると、

まだ人影がゆらゆらと揺れています。

 

〜つづく

(9/10) 次回最終話。


 

2024/03/07

人形や珈琲店8(全10)

少しずつ奥に進んでいくと、部屋の隅に鏡がかけられていました。

そのすぐ下に置かれた人形を見ていたとむさんは、

急に体がうまく動かなくなりました。

(両手が重くて上がらないぞ。

 雨にあたって風邪でもひいたかな……)

そっと顔をあげると、

鏡の中にはいつもの自分の姿が見えます。

でもなにかがおかしいと感じました。

 

スケッチブックを持つ左手と、

鉛筆を持つ右手から、それぞれ

一本の細い糸が垂れています。



つつっと、両手が天井に向かってひっぱられると、

右手に持った鉛筆の芯が

パキッと軽い音をたてました。

 

「わっ。」

とむさんは声をあげると

階段に向かって走り出しました。

 

〜つづく

(8/10)


2024/03/06

人形や珈琲店7(全10)

左右の壁際には、

うねうねとした模様がうかぶ、

木彫りの低い棚がならんでいます。

その上に自分たちの出番を待つ

大小さまざまな人形が、

糸をたらして静かに座っていました。

 

ぼんやりくすんだ灯りのもと、

棚やテーブルにのっている人形達は、

顔だけが浮かび上がってみえます。

小さな顔の一つを見下ろすと、

長いまつげは真っ直ぐに正面を

見つめていました。

 

あの目が動いて、

急にこちらを向くのではないだろうか。

とむさんは、そんな気がして、

なかなか目をそらすことが

出来ませんでした。

 

〜つづく

(7/10)

2024/03/05

人形や珈琲店6(全10)

 

よく見ると、灯りとりの小窓には

人形の絵が描かれているマッチ箱が、

兵隊のように一列に並んで続いています。

マッチ箱の兵隊がとぎれて、

ランプのともる二階の部屋に着きました。

 

灯りが揺れると、

それほど広くない部屋の角には、

いくつもの人形の影が、

こちらを笑っているように揺れています。

 

部屋の中央におかれている

大きなガラスケースの中には、

昔話の登場人物が並んで眠っていました。

正面には、ほうきにのった

かぎ鼻の魔法使いが細い糸で釣られています。

その隣には、大きな鎧の人形がヤリを右手に

こちらを睨んでいます。

部屋にいるのは人形だけでした。

 

「ランプの火がゆらいで、人影に見えたのか。」

とむさんは、鎧の人形を横目でみながら、

自分に言い聞かせるようにつぶやきました。

 

〜つづく

(6/10)

2024/03/04

人形や珈琲店5(全10)

「あついコーヒーを一杯もらおうかな。

 ところで二階はどうなっているの?」

「上は、操り人形のコレクションです。」

「へえ、おもしろそうだね。」

「はい。お客さんは絵描きさんですか。」

男の人は、カウンターの中から

とむさんのスケッチブックを見ながらいいました。

 

「それなら、うちの人形達を描いてやってくださいよ。」

「いいんですか?じゃあ、さっそくみせてもらうかな。」

「どうぞどうぞ。コーヒーが入る間に見ていらしてください。」

男の人は小さくうなづきながら

お湯のポットをゆらゆらと揺らしています。

 

階段の下から見上げると、ランプのあかりの中、

いくつかの人影が動いているのがみえました。

(他にもお客さんがいるのかな。)

 

木で出来ている階段は、一足ごとにきしむ音が響きます。

キイ、ギシ……。

足元の壁に沿って、古めかしいよそ行きの洋服を着た

たくさんの人形達が、行儀良くならんで

こちらを見つめていました。

 

〜つづく

(5/10)

2024/03/02

人形や珈琲店4(全10)

 

男の人は、まるでとむさんが来るのを

知っていたかのように、

にっこりうなずいています。

「あの、コーヒーの良い香りがしたので……。」

「はい。一階はコーヒー専門店でございます。」

「ならちょうどいい。

 一休みさせてもらおうかな。」

 

カウンターだけの狭いお店は、

ちいさな椅子が5つあるだけでした。

あちらこちらに古いランプがおかれ、

分厚い外国の本が並んでいます。

 

壁には、動いているのが

不思議なくらいの古い柱時計。

外からぼんやりと見えた灯りは、

窓ガラスに映るランプの光でした。

お店の奥には、二階へ続く

細い階段がみえました。

 

〜つづく

(4/10)