とむさんは、かたかたと震える手で
コーヒーを一口飲むと、
急いで玄関へ向かいました。
「ご、ごちそうさま。」
「おや、もうお帰りですか。」
店主は少し残念そうでしたが、
あきらめたようにうなずいて、
とむさんにこうもり傘を手渡しました。
外に出ると、雨はもう小降りになっていました。
駆け足で進むとむさんの背中にむけて
「また、お待ちしています。」
と声がしました。
振り返ると、店の入り口で
手をふる店主の姿が見えました。
キラリ。
その右手の先から、雨のような細い糸が、
空に向かってのびていました。〜終わり