2024/01/31

いちばん雪6(全6)

 


そうたの感心した様子をみて、

雪虫はふわりと舞い上がりました。

 

「ね。わかった?わたしもこれから巣の仕度があるから、さよなら」

雪虫はそういって、

古いヤチダモの木がならぶ公園にむかって飛んで行きました。

 

「雪が降るんだ。明日から手袋をしようっと」

そうたは、つめたくなった手に

はあっと息を吹きかけました。

そして雪虫が見えなくなるまで見送った後、また走り出しました。 〜おわり


2024/01/30

いちばん雪5(全6)

 

「もう、街はすっかり寒いでしょう?

 わたしたちの卵がちゃんと冬をこせるような

 立派な木を探しにきたの」

「そう。それで、何がいちばん雪?」

 

「うん。わたしたちはそれぞれが

 いちばん最初にあった誰かに、

 もうすぐ雪がふりますよってしらせるの」

「へえ、そうなんだ」  〜つづく

2024/01/29

いちばん雪4(全6)





「はあ、雪じゃないんだ」
そうたのつぶやきに、雪虫は
小さな頭をゆらしながら答えました。
「うん、そう。でも、あなたの言った
『いちばん雪』っていうの。
 案外、間違ってないかもね」
 
「え、そうなの?」
そうたはゆっくりと立ち上がると、
手をもぞもぞと前にさしだしました。
 
すると雪虫は、あたりまえのように
そうたの手のひらにぴたりと止まると、
また話しはじめました。 〜つづく

2024/01/28

いちばん雪3(全6)

「君みたいなうっかりやに見つかっちゃうなんて、ついてないな」
そうたの耳元で、雪の粒がまたしゃべりだしました。 
「ゆきむし。わたしはね、雪じゃないから」
声のするほうをみると、
なるほど確かに羽根の下に白いわたをもった虫でした。

うす茶色い体から細い糸くずみたいな足が6本。
けれどそのゆらりと揺れる様子は、
風に舞う小さな雪のかけらのようです。 〜つづく

2024/01/27

いちばん雪2(全6)

 「へえ、雪がふってきたぞ。
いちばん星じゃなくていちばん雪だな」
白いひとひらの雪は、風がないのにちらちらと揺れてみえます。

ゆっくりゆっくり。

「いちばん雪、たべちゃえ。あ〜ん」

そうたは、丸めていた背中をぴんとのばし、

空に向けて大きな口をあけました。


「だめだめ!たべないで。よくみてよ」

突然、目の前の雪が小さな声でしゃべり出しました。

「うひゃっ」

驚いたそうたは、まるで小猿のような叫び声をあげ、

そのまま冷たい歩道にしりもちをついてしまいました。〜つづく

2024/01/25

いちばん雪1(全6)

昨日までの冷たい雨もやんで、

今日は朝から晴れた一日でした。

「ふう、手がつめたいよ」。

そうたは立ち止まると、にぎりしめた手に、

はっはっと息を吹きかけました。

 

さっき、学校の門をでてから

ずっと走って体はポカポカしてきましたが、

しめった手とほっぺたにあたる空気は、

もう冬の冷たさです。

 

「今日のおやつ何かな。

 あったかいココアがのみたいなあ」

いそいで帰ろうと、近道の公園を

走り抜けようとしたとき、

空から白い綿のような

小さな粒が落ちてくるのが見えました。 〜つづく


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前のブログからのお話を少し移行更新したいと思います

今日からのタイトルは「いちばん雪」全6回

下記は2015年11月、最初に掲載した時の文章です


ここ数日で、北海道はすっかり雪景色です。
 
北海道出身、在住の自分にとっては
冬の初めに毎年出会う雪虫。
調べてみると、北日本で通称雪虫とよばれる虫は
いくつかいるらしいのですが、
北海道でなじみのある雪虫は
トドノネオオワタムシと言うそうです。
 
お話のなかにあるように、
初雪が降る少し前に一斉に飛ぶ事から、
雪虫を見たら「もうすぐ雪が降る」と言います。
 
私にとっては当たり前の存在の虫だったのですが、
以前、私のこのお話を読んだ
児童文学同人誌宙soraの仲間全員から(みんな出身地はバラバラ)
雪虫そのものも私の創作だと思ったと言われ、
え、みんな知らないの?と逆に驚いたものです。
 
 
 

2024/01/23

元気なおばあさん


この秋に「とだなのなかのおばあさん」の
シリーズ3冊目を予定しています。
最初のお話が出版されたのが
平成20年(2008年)でした。
このおばあさんのお話は、作家と画家の2人が組んで
絵本を作り、展示するという企画に
参加した時のものです。

2019年の2作目と比べると最初の絵本のほうが
おばあさんが少しふくよかです。
制作最初の段階で私がイメージしたおばあさんは
「ハーブに詳しいなら、お料理が得意で
 美味しいものが大好きなはず。
 スタイルはふっくら優しいフォルム」
そして
「淡い色のスカーフとカーディガンはハーブで染めて、
お団子頭にはハーブの花を飾る」ということでした。
さて、3作目のおばあさんは‥、
元気いっぱい、ますますパワーアップしています。